「伝えたいこと」と「ユーザーニーズ」のズレを埋める書きかた

伝えたいこととユーザーニーズのズレ
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「私たちの強みをもっと伝えたいんです」
「商品のよさをわかってほしくて」
「このこだわりを伝えるために何ができますか」

よく聞く言葉なのですが、サービス提供者(企業とか)が「伝えたいこと」と「ユーザーが知りたいこと」には、しばしば大きなズレが生じます。よくあるのがこんな構図です。

企業が伝えたいことユーザーが求めていること
こだわり具体的なメリット
技術のすばらしさ実際の使用感
企業理念と開発の背景実用的な情報

このズレこそが、「伝わらない」「響かない」の大きな原因になっているのです。

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1. 「あたりまえ」に対する認識違いを確認する

企業側とユーザー側では、「あたりまえ」の認識が大きく異なることがあります。たとえば、あるECサイトの「季節のおやつ特集」ページをつくるにあたっては、認識の違いに差がありました。ユーザーがサイト内検索で使うキーワードをもとに分析した結果、わかったことが下記です。

企業が伝えたいことユーザーが求めていること
厳選した旬の果物を使用賞味期限はいつ?
伝統的な製法と特別な材料でつくったこだわりの味日持ちはどのくらい?
期間限定販売のスペシャルボックスプレゼントとして贈れる?

企業としては、素材や製法へのこだわりが最も伝えたい強みです。ですが、ユーザーにとっては、そのお菓子がどのくらいもつか、持ち運びがしやすいかなど、「商品としての使い勝手」を知りたがっていたのです。

2. 価値の伝え方をユーザー目線にする

製品やサービスの価値を、ユーザー目線で言語化できていないこともあります。

ある種苗会社は独自の研究機関をもち、最先端の開発を行っています。当然それが会社の強みですが、企業が伝えたい「技術のすばらしさ」と、ユーザーが求める「実用的な情報」にはズレがありました。

たとえば、「独自の品種改良技術」はユーザーにとって直接のメリットにはなりませんが、「この品種は病気に強く、枯れにくい」と伝えると、生産者にとってのメリットがよくわかります。こうした認識のズレを解消するには、「専門的な情報をユーザーにとってのメリットに置き換える」視点が必要です。

企業が伝えたいことユーザーに響く伝え方
独自の品種改良技術病気に強く、枯れにくい
徹底した品質管理むらなく育ち、味が安定している
長年の研究開発の実績スーパーでは手に入らない特別な味

「技術やこだわり」ではなく、「それがユーザーにどう役立つのか?」を言語化することがポイントです。

3. 企業視点とユーザー視点のズレを見つける

もうひとつの大きなズレは、企業とユーザーの「視点の違い」です。たとえば、新しいダイエット食品を売り出すとき、企業が考えるのは次のような点です。

  • 低カロリーかつ栄養バランスに優れている
  • 科学的な研究結果に基づいた配合
  • 開発者がこだわり抜いた美味しさ

一方で、ユーザーが知りたいのはこういうことかもしれません。

  • 本当に美味しいの? 毎日続けられる味なの?
  • 他のダイエット食品と何が違うの?
  • 何日くらい食べればやせるの?

企業は「自社の製品がどれほど優れているか」を伝えたい。でも、ユーザーは「自分の悩みをどう解決できるか」を知りたいのです。

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ユーザー視点で情報を整理する方法

前述のダイエット食品を例に、情報を整理してみます。

  1. 「だから何?」で考える
  • 低カロリーかつ栄養バランスに優れている
    → だから、無理なく健康的にやせられる
  • 科学的な研究結果に基づいた配合
    → だから、安心して食べられる
  1. 比較を取り入れる
  • 「他のダイエット食品と何が違うの?」に答えるため、他社製品との違いを示す
    →「A社・B社・当社」の比較表をつくる等
  1. 具体的な数字を使う
  • 「3週間食べ続けて、ウエスト−3cmの実績」のように、実際のデータを伝える。難しい場合はお客様の声を掲載するのもあり
    ※ただし、景表法や薬機法の違反にならないよう注意する

わりと普通のことじゃないの、と思いますよね。個人的にはそう感じても、自社サービスを紹介する場面になると、ここがすっぽり抜け落ちることが多いのです。自社サービスを知り尽くしているからこその、「ここを伝えたい」熱意がそうさせてしまうんですけど(笑)。

具体的な事例から考える

これまで説明したような「ズレ」をどう埋めるか。実際のクライアントワークでの事例を紹介しながら、解決策を考えていきます。

事例1:ECサイトのコピー改善

ある食品系ECサイトでは、商品の説明文に「職人のこだわり」や「伝統の製法」など、キャッチコピー的な華やかな内容が強調して書かれていました。しかし、購入者のレビューや問い合わせを見ると、次のような声が寄せられていました。

  • 「どのくらい日持ちするのかわかりにくい」
  • 「贈り物にしたいけど、プレゼント包装はできる?」
  • 「味は? 食感は? 値段が高いけど、他のものとどう違うの?」

企業は、商品のストーリーや素材の紹介に力を入れていましたが、ユーザーは「購入時に必要な情報」を求めていました。こういう情報って、意外と小さい文字でまとまって書かれていて、見落とされがちなんですよね。とくに社内で。

▼解決策:情報の優先順位を変更して書き換える

  • 商品ページの冒頭に「賞味期限」「ギフト対応可否」「特徴的な味や食感」を明記
  • 詳細情報はフォントサイズが小さかったので、通常のフォントサイズに修正
  • こだわりの製法については、購入を検討する段階で読める位置に配置

改善の結果、ユーザーの疑問が解消され、カート投入率が上がりました。

事例2:BtoBサービスの営業資料の改善

IT企業が提供する業務効率化ツールの営業資料では、次のような内容が強調されていました。

  • 当社独自のアルゴリズムを活用したシステム
  • 高度なデータ分析機能を搭載し、効率化アップ
  • 業界トップクラスの技術力

しかし、実際に営業を受けたクライアント企業の担当者からは、こんな反応があったそうです。

  • 具体的に何がどう改善されるの?
  • ウチで導入すると、月にいくらコスト削減できるの?
  • 操作は簡単なの? ITリテラシーのレベルってどのくらい?

▼解決策:技術の説明を「ビジネス上のメリット」に書き換える

  • 当社独自のアルゴリズムを活用
    ○○業務の手間を50%削減し、残業時間を減らせる
  • 高度なデータ分析機能を搭載
    ボタンひとつで売上分析ができる
  • 業界トップクラスの技術力
    「〇〇社や△△社も導入。導入後の売上改善率は平均30%

書き換えた結果、営業資料の説得力が増し、成約率が向上しました。読み手に自分事として捉えてもらうには、毎日の業務がどう変わるかがわからないと、心は動きません。とくによく響いたのは、残業時間が減るとか、エクセルで手動計算しているものが、ワンクリックで計算ができるとか。そういうわかりやすい簡単さは、とても反応が高かったと聞いています。

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認識のズレを埋める3つのコツ

認識のズレをなくし、伝わる文章を書くにはどうすればいいのか。3つのコツがあります。

1.想定顧客を明確にする

やはり大事なのは、想定顧客です。これがないと始まりません。これがないまま、商品やサービスを主人公にして考えると、伝わる文章を伝えたい相手が行方不明なままです。ですから、まず考える必要があるのは、次の3点です。

  • 誰に向けて書くか(初心者? 専門家? BtoB? BtoC?)
  • 想定顧客は何を知りたがっているのか
  • 想定顧客にはどんな言葉が伝わりやすいか
  1. 伝えたい要点を1文でまとめる
    伝えたい相手が明確になったら、その方に何をいちばん伝えたいか。一文にまとめてみます。最初は意味がわからない長文でいいのです。まずまとめてみる。そこからだんだん短くしていくと、言いたいことがまとまっていきます。
  • この製品・サービスの最大の強みは何か
  • 「伝えたいことの軸」「他との違い」をシンプルに書く

    例:3週間でブログが書けるようになる初心者のためのライティング講座をやりたい
    →「初心者でも3週間でブログが書けるライティング講座」

    とか。
  1. ユーザー視点で情報を整理する
  • 伝えたいことを「ユーザーが知りたい形」に変換
  • 具体例を入れる(データ、比較、実績)
  • 伝える順番を意識する(「こだわり」よりも「使い方」を先に)

2. 具体的なわかりやすさを考える

わかりやすさを考えるとき、知識がない中学生にもわかるように書いてみてください。すると、前提条件の説明が必要だとか、この表現は専門知識がないとわからないとか、言葉だけではわからないから図解を入れようとか、そういったアイディアが湧きます。

  • 専門用語を避け、中学生にも理解できる表現にする
  • 抽象的な表現ではなく、具体例を挙げる
  • 「ユーザーにとって何がベストか?」を意識する

3. 自分以外の方に見てもらう

やっぱり最後はこれですよね。当事者はずっと同じものを見ているので、意識を変えたつもりになっても、近視眼的な状況になっています。ですから、第三者に依頼するか、頼む方がいない場合は、ABテストでユーザーの判断に委ねるのもありです。

  • 第三者チェックを行う
    →第三者(可能なら想定顧客)に読んでもらって、フィードバックをお願いします。「この文章で、内容がすぐに理解できるかどうか」を見てもらいます。
  • シンプルなABテストを実施
    →ふたつの表現を試し、どちらがより反応がいいか比較します。広告バナーを使ってABテストしたり、CMSにABテストできるツールが入っていれば、それを使って試します。ツールがなければ、期間を決めて表示期間を同一にし、クリック数などの効果測定をします。

こだわりを伝えるためにこだわりを捨てる

情報を発信するとき、「伝えたいこと」と「ユーザーが知りたいこと」のズレが生じるのは自然なことです。しかし、このズレを放置すると、どれだけ良い商品やサービスでも「伝わらない」「響かない」状態に陥りがちです。だからこそ、ユーザーの視点に立ち、情報の伝え方を工夫することが重要です。

  • 「伝えたいこと」と「ユーザーが知りたいこと」にはズレが生じやすい
  • そのズレは「前提知識の違い」「価値の伝え方の問題」「企業視点とユーザー視点のズレ」から生まれる
  • 具体的な事例をもとに、情報の優先順位や表現の仕方を工夫する
  • 「伝えたいこと」を「ユーザーが知りたいこと」に変換する視点を持ち、実践する

「自分たちのこだわりをもっと伝えたい」と考えるのは自然なことですが、一方的に押しつけるのではなく、「ユーザーが知りたい形」に翻訳することが伝わる文章を作る最大のポイントです。この内容を参考に、ユーザー視点を意識した伝え方を実践してみてください。

書いた人
まてぃさん
「独立して穏やかに暮らす働き方」を軸にデジタルマーケティングの支援を行っています。自分らしさを出せるSEOライティングとか、自分の商品・サービスのよさを伝えるコンテンツの磨き方がメインのお仕事。趣味はキックボクシングと登山。株式会社Rdesign factory代表取締役。
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