コンテンツを利用した収益化戦略

前回記事にも書きましたとおり、コンテンツは単なる一時的な情報発信ではなく、時間とともに価値が増し、継続的な収益を生み出す資産にもなりえます。その可能性を最大限に引き出すには、戦略が必要です。
本記事では、コンテンツがどのようにして時間とともに価値を増していくのか、そしてそれをどう収益化につなげていくのか、出版社での経験をもとに実践的な方法を解説します。

王道はコンテンツの書籍化
ブログをきっかけに出版する
編集者としての経験から言えるのは、出版社は常に新たな著者や面白い企画を探しています。発信している方の情報を得るために、特定分野のブログやサイト、SNSをくまなくチェックしています。出版社からの依頼を引き寄せるためには、まず「見つけてもらえる」環境を整えることが重要です。
- 特定の分野に特化した情報を豊富に発信する
- 自分の経歴や専門性をわかりやすく示す
- 連絡先や問い合わせ方法をわかる場所に出しておく
窓口があると編集者が連絡しやすくなりますので、コンタクト方法を出しておくことは意外と重要なポイントです。
分散したコンテンツの体系化と書籍構成への変換方法
ブログを書籍化する際は、単なる寄せ集めではなく、一貫性のある体系的な構成に再編集することが必要です。具体的には、
- コンテンツを主要テーマ別に分類する
- 論理的な流れになるよう章立てを考える
- 内容の重複を整理し、必要に応じて新たな内容を加筆する
- 書籍ならではの深掘りや補足説明を加える
- 一貫した文体やトーンに調整する
この過程を経ることで、あちこちにテーマがばらついていた発信していたコンテンツが、体系的な知識として再構築され、一冊にまとまることで高い価値を持つようになります。
できる編集者はきちんとこうした内容を踏まえて提案をしますが、そうでない編集者は、著者候補の数字しか見ていないので、内容が雑なことが多いです。その点はご自身で見極め、上記のような再編集をご自身で提案し、進めていくことがとても重要になります。

出版社の印税契約について
以下は余談です。出版は全然もうかりません。基本的にビジネス系の方が出版をする場合は、宣伝やブランディングだと思って割り切るのがいいと個人的に思います。
10%の印税契約がベーシックな時代もありましたが、今は出版業界が大変苦しい状況にあり、印税率は多くて7%、少ない場合は5%のことも。その代わり重版印税の税率を多めにしていることが多いです。最近は印刷部数が3,000部程度からスタートしますので、刷るだけで赤字です。
たとえば、著者に印税がいくら入ってくるかというと、計算式は「印税額=販売価格×部数×印税率」です(これ、税抜き計算でよかったんでしたっけ。思い出したの久しぶりだから間違ってるかも)。
- 税抜1,600円の単行本で、印税率5%の場合
1,600円×3,000部×0.05=240,000円 - 税抜1,600円の単行本で、印税率7%の場合
1,600円×3,000部×0.07=336,000円
この金額のためにどこまで何ができるかを頭に置いて、割ける時間数を考えます。0から原稿を書くとなると、最低でも半年かかります。
また出版社によっては、いまだに口頭契約をしたり、契約書未締結のまま、業務開始をするところがあります。編集者が社内で企画を通さないまま著者に相談に行くことが多いので、その辺の順番が曖昧なんですよね。
契約やお金、他人の時間に無頓着な編集者も多いので、著者側がそういう相手に詳細を詰めるとめんどくさく思って、連絡がなくなる編集者もいます。この場合、たいてい社内で企画が通っていません。こういう方にあたった場合は、この後も面倒に巻き込まれ続けますので、即フェードアウトが賢明です。
自分で電子書籍を出す
出版社を介さなくても、Amazon KDPなどの電子書籍プラットフォームを活用すれば、自分で電子書籍をリリースすることもできます。自分でやるメリットは、出版の自由度が高く、印税率も高くなる点です。電子書籍は各プラットフォームで出せますが、規格の統一がされていないので自分でやるには手間です。かつ、煩雑な作業が多いので、個人がやるならKindle一択かなと思います。
ただし自分で出版する場合は、編集・デザイン・マーケティングなど、出版社が担う役割を自分で行う必要があります。その際に行うことは、次の内容です。
- 読者ニーズに合わせたテーマ選定
- (プロフェッショナルな)表紙デザインの用意
- 内容の校正・編集の徹底
- 宣伝用の書籍説明文とキーワード設定
- 価格設定の最適化(低すぎず、高すぎず)
マーケティングやライティングが自分でできる方は、デザインだけデザイナーに出して、自分でつくってもいいと思いますし、フリーの編集者を雇って、ディレクションを依頼する方法もあります。ギャラを払いきりにして、印税を払わなくてすむよう契約締結するのがコツです。
ちなみに、電子書籍のリリース先をKindle独占にすると、通常の印税率35%のところが、最大70%になります。余談ですが、出版社を通すと、契約内容にもよりますが、たいていAmazon以外のプラットフォームにもリリースしますので、Kindleの印税率は35%。著者と案分しますので、17.5%になります。
ただし、プラットフォームごとに印税率が違いますので、著者と出版社の間で「電子書籍の印税率は10-15%程度」に統一して契約が結ばれることもあります。これは会社の方針や、交渉によって異なりますので確認が必要です。

出版を足がかりに事業へ展開する
著者としての信頼性を活かした講演・セミナーを行う
書籍を出すことは、専門性や信頼性を示す強い証明となります。これを足がかりに、講演やセミナー事業へと展開するケースをたくさん見てきました。出版後に講演依頼が増えるのは珍しくありません。「『〇〇』の著者」という肩書きは、主催者にとっても参加者にとっても、専門性の証となるからです。
講演・セミナー事業を展開する際のポイント
- 書籍の内容を基にした複数の講演テーマを用意する
- ターゲットとなる業界や団体をリサーチする
- 自分の講演内容や条件を明記したプロフィールを作成する
- 最初は無料や少額でも積極的に実績を作る
- 参加者の声や成果を集め、次の機会につなげる
書籍内容を基にした企業研修・ワークショップを行う
書籍の内容は、企業研修やワークショップのプログラムとしても展開できます。
企業研修では、書籍で解説した理論や方法論を、その企業の具体的な課題に応用する形でカスタマイズすることが重要です。汎用的な内容よりも、クライアント企業の特定の課題解決に焦点を当てたアプローチが喜ばれます。
提案のポイント
- 企業の業界や課題に合わせたカスタマイズ案を用意する
- 具体的な成果や効果をわかりやすく提示する
- 短期・長期の研修プログラムを用意する
オンライン講座や動画コンテンツをつくる
書籍の内容は、オンラインコースや動画コンテンツとしても展開できます。これにより、地理的・時間的制約なく、より多くの方にリーチが可能になります。
オンラインコースは、書籍よりインタラクティブで、実践的な内容を含められる点です。書籍で解説した内容を、演習やフィードバック、参加者同士の交流などを交えて、より深く学べる環境として再構築することで、新たな価値を提供できます。
オンライン講座や動画にするポイント
- 書籍の内容をモジュール化し、段階的に学べるよう再構成する
- 動画、音声、テキスト、ワークシートなど多様な形式でコンテンツを提供する
- 受講者の進捗や成果を確認できる仕組みを組み込む
- コミュニティ機能などを通じて、継続的なエンゲージメントを促す

無料・有料の境界線の引き方と価格設定の考え方
コンテンツ有料化の境目
ここからは自力で収益化する考え方です。収益化の第一歩は、どのコンテンツを無料で提供し、どのコンテンツに対価を求めるかの線引きをはっきりさせることです。
私自身は、基本的な情報や概論は無料で提供し、より専門的・実践的な内容や、時間と労力をかけて作成した独自のノウハウは有料にする切り分けにすると、反応が高かった実感があります。そこがあいまいだと、無風になります(笑)。
たとえば、雑誌で特集したテーマをセミナーとして行う場合、無料と有料の境目は「体験」です。まず雑誌の公式サイトに雑誌に掲載した「知識」を公開します。その横で、実際にやってみたい方向けの講座やワークショップのLP(募集ページ)をつくり、「知識」ページとつないで興味がある方に申し込んでいただける流れをつくります。
価格設定については、提供する価値と読者が得られるメリットを基準に考えます。ユーザーが実践することで数万円の価値を得られるノウハウであれば、数千円の価格設定は十分に納得していただけると考えています。
既存コンテンツを教育プログラムに再構成する
すでに公開しているブログ記事や記事コンテンツは、オンラインコースやワークショップとして再構成すると、新たな価値を生み出すこともできます。
たとえば、関連する複数の記事を体系化し、ステップ式の学習プログラムとしてつくることもできます。体系的にまとめることで、必要とするユーザーが効率的に学べるプログラムになります。ユーザーは体系的な知識を得られるため、より高い対価を支払う意義も見出しやすくなります。
いくつか特定のテーマに絞ってブログを書いている方は、この方法がやりやすいと思います。自分で体系化できない場合は、ビジネス書が得意なフリーの編集者に相談すると、こういった相談にも乗ってくれます。
ダウンロード可能な資料やテンプレートを商品化する
ブログやサイトのコンテンツを補完する実用的な資料やテンプレートも、商品化する価値があります。
たとえば、記事で解説した内容を実践するためのワークシートや、時間を節約できるテンプレート、チェックリストなどを作成し、有料ダウンロード商品として提供することもできます。これらは作成コストが低いですが、実用性が高く、すぐ使えるため、購入されやすいツールになります。
あるいは、こういったツールを無料配布にする代わりに、メールアドレスを登録してもらって、見込み客リストをつくることもできます。

コンテンツが時間とともに価値を増す理由
ブログや公式サイトで自分の名前や肩書、専門分野を明かした上で特定のテーマについて記事を書き続けると、コンテンツの価値が時間とともに上がっていきます。
記事を書く目的がなんであれ、以下のような価値を生み出す可能性が高いので、頭の片隅に置いていただけると、書く気持ちが折れそうになったときの支えになると思います。
普遍的な価値を持ち続けるコンテンツの特徴
時間とともに価値が上がっていくコンテンツには、いくつか共通点があります。
- 一定の情報量がある
表面的ではなく、テーマについて十分な深さで掘り下げられている - 経験に基づく独自の視点がある
誰でも書ける一般論ではなく、あなたならではの経験や知見が含まれている - 出し惜しみしない
価値ある情報を惜しみなく提供している - 数を多く出す
同じテーマについて複数の切り口から情報を提供している
これらの特徴を持つコンテンツは、一時的なトレンドに左右されず、長期にわたって価値を提供し続けることができます。
SEO効果の蓄積と検索流入の長期的増加
雑誌サイトを運営していて実感したのは、基礎知識や普遍的な内容を扱ったコンテンツは、時間が経過しても検索からの流入が続き、むしろ増加することもあります。これは、Googleがそのコンテンツを「信頼できる情報源」として評価し、検索順位を上げるためです。
検索エンジンは、長期間にわたって存在し、多くのユーザーに参照されているコンテンツを高く評価する傾向があります。そのため、質の高いコンテンツを継続的に発信し続けることで、検索流入は時間とともに増加します。発信する「著者」の評価も上がります。
参照リンクの増加による権威性の向上
質の高いコンテンツは、他のウェブサイトやSNSで言及され、リンクされることで、さらに価値が上がります。こうした外部からの参照(いわゆる「外部リンク」)は、コンテンツの権威性を高め、さらなる認知拡大にもつながります。
たとえば、特定のテーマについて深掘りした記事を公開すると、その分野の関係者や愛好家から紹介されたり、リンクを貼られたりします。その結果、特定のテーマを検索するユーザーにとっての「必見コンテンツ」となり、人を介して伝わっていくコンテンツは、Googleが「優良コンテンツ」と認識し、検索結果上位表示されることになります。
※参考情報:有用で信頼性の高い、ユーザー第一のコンテンツの作成

持続可能なコンテンツづくりのために
コンテンツ収益化したい場合、書籍化はその後のマネタイズの足がかりとしておすすめです。それ自体は収益としては小さいですが、講演・セミナー、企業研修、オンラインセミナーなど、様々な形態で展開しやすくなります。
そのための第一歩は、経験に基づく知見をひとつでも多くアウトプットすることです。書けば書くほど、自分の経験と知識も深まりますし、新たな機会との出会いも増えます。
「何を書けばいいのかわからない」と悩むより、まずはアウトプットすることから始めてみてください。これまでの経験やスキル、知見のすべてが、他の誰にもまねできない、唯一無二の資産になりますから。