専門性を活かした情報発信に、ユーザーの絞り込みが必要な理由

インターネットは、広大な情報の海です。そのなかで自分の声を理想のお客様に届けるには、「誰に」「何を」伝えるかを明確にすることが欠かせません。とくに専門性を活かした情報発信では、「この方にこそ届けたい」と思うお客様のイメージの絞り込みがとても大切。なぜなら、すべての人に届けようとすると、結局誰にも届かないからです。
今回は、フィットネストレーナーのPさんの例をもとに、なぜ絞り込みが大切なのか、そしてどう実践するといいのかをお伝えします。

ターゲット設定の罠―「もったいない」という恐れを手放す
多くの方が陥りがちな罠があります。それは「どんなお客様がいいかを絞ると機会を逃してしまう」という恐れです。フィットネストレーナーPさんは、次の4つのジャンルのお客様に向けて情報発信をしています。
- ダイエット目的の一般女性
- 筋トレを行う男性
- 高齢者になったときの健康維持を目指す方
- アスリートを目指す10代
この場合、ダイエット目的の女性のお客様と、アスリートを目指す10代のお客様は、明らかに必要とする情報が違います。ですが、「どちらにも読んでほしい」と思って記事を書くと、結果としてどちらのお客様の心にも刺さらない情報になるのは、予想できると思います。
ここで大切なのは、優先順位をつける勇気です。
すべてのお客様に等しく価値ある情報を届けることは難しいです。こういう場合は、自分の強みが最も活きる層をひとつ選び、そこに集中したいところ。Pさんの場合、女性向けのパーソナルトレーニングを多く手がけてきた経験から、「健康を目的として運動がしたい30代以上の女性」を最優先するお客様として設定することをおすすめしました。
絞り込みの効果―SEOとブランディングの両面から考える
専門分野をテーマに記事を書く
お客様を絞り込むメリットは、単に読者に合わせた内容が作りやすくなるだけではありません。SEO(検索エンジン最適化)の観点からも大きな効果があります。
たとえば、「フィットネス」というキーワードは非常に競争が激しいビッグキーワードです。個人のブログが上位表示されるのは至難の業です。ですが、ジャンルを絞って「女性向けダイエット」と「自宅トレーニング」というキーワードを軸に特定の項目、たとえば、
- 産後ダイエット
- 40代からの筋力維持プログラム
- 女性特有の体調サイクルに合わせたトレーニング
など、狭い範囲の専門分野の記事を増やしていくことで、検索からの流入を増やす可能性を高めることができます。

レッドオーシャンで勝負をしない
筋トレ情報は、すでに多くの方が発信しているレッドオーシャン市場です。その中で埋もれないためには、「女性向けフィットネス」という範囲を絞ったジャンルのなかで、自分ならではの切り口や専門性を示すことが重要になります。つまり、届けたいと思うお客様の絞り込みは、ブランディングにも直結するのです。
私自身、このブログでも「語彙力を上げる・増やす」「コンテンツとは」に関する記事はとくに反応が高く、ブログの流入数に大きく貢献しています。これは私がコンテンツ産業や語彙に関わる仕事をしてきた専門性が、Googleから評価されているとも言えます。

自然と好かれるための発信戦略
必要な情報があるだけでは足りない
情報は、届けるだけでは足りません。お客様となりうる方と長期的な関係を築くためには、ユーザーにあなた自身を「好きになってもらう」ことがとても大事です。
先ほどのPさんのブログは、情熱とテンションが伝わってくる素晴らしい記事ですが、トレーニング情報が前面に出すぎているため、ユーザーがブログを見て、情報だけを取って離脱する状態であるよう感じられました。
具体的にどういうことかというと、検索ユーザーにとって知りたいことが書かれていそうだと感じて、Pさんのブログを訪問します。その際、ユーザーは自分が欲しい情報しか見ていませんので、書き手がPさんであることも、Pさんの専門分野が何かも知らないまま、必要な情報があるかどうかだけをページ上で確認し、ブラウザを閉じたということです。
この訪問をきっかけに、ユーザーにPさんを知ってほしいところですが、ブログ側にそのしかけがないと、ユーザーはただの通りすがりで終わってしまうのです。

1.書き手が誰かすぐにわかるようにする
では、どうすれば情報だけ取られる状態から、「あなた自身を知ってもらい、好かれる」状態をつくればいいか。
■記事のどこかに「書いた人」についての情報を必ず入れる
これは最近のGoogleも推奨している「バイライン」と呼ばれるもので、記事の冒頭か終わりに著者プロフィールを設置します。私自身もブログの各記事に「まてぃさん」のプロフィール写真とともに、簡単な自己紹介を入れています。小さなことですが、これがあるとないとでは大違いです。
▼こちらですね。この下にも記事が続きます。

また、文中で「私は」という一人称を適度に使い、あなた自身の考えやスタンスを示すのも効果的です。たとえばPさんなら「私はトレーナーとして10年間、とくに産後の女性の体型改善に携わってきましたが、その経験から言えることは……」のように経験を踏まえた発言をします。
これだけで読み手は「ああ、この方は産後ダイエットの専門家なんだな」と認識できます。
とくに、過去に新聞や雑誌などで記事を書くことを仕事としている場合、「私は」という一人称を使わないで文章を書く訓練を重ねていますので、意識しないと書けません。私自身も文中に「私は」を使った表現に慣れるまで、少し時間がかかりました。
2.経験をもとに記事を書く
実際に経験した事実は唯一無二のものです。
たとえば、Pさんの記事に「10分エクササイズ」の情報があったとして、それだけなら他のサイトでも見つかる情報かもしれません。ですが、
「私自身、育児中に時間がなく、子どもが昼寝している15分の間にできる効率的なトレーニング方法を模索しました。運動したほうが身体の調子がいいので、何もしないことが苦痛だったんです。その結果、私が今トレーニングメニューで提案している『10分エクササイズ』にたどり着きました」
という体験談が加わると、ぐっと人間味が増し、共感を呼びますよね。

体験談は単なる情報よりも記憶に残りやすく、信頼性も高まりやすいと言われています。つまり「これは私が実際に試して効果があった方法です」というひとことがあるだけで、情報の価値を何倍にも高めてくれるのです。
ですから、私もPさんを例に、この記事を書いています。

3.独自の言い回しやキャッチフレーズを意識する
私なら「コンテンツの磨き方」「独立して穏やかに暮らす働き方」のようにな独自の言い回し、Pさんなら、仮に「朝活ブースター運動」のように自分の活動に独自の名前をつけると、それを目にするたびに「あ、Pさんのトレーニングだ」と認識されやすくなります。
これはちょうど、お店のシンボルマークのような役割を果たしています。キャッチフレーズ的に「言葉の個性」や「ひっかかり」を作ることが、ブランディングにつながるためです。
独自の価値観や世界観を示すことも効果があります。
Pさんなら、「私は『無理なく続けることが最高のトレーニング』と考えています」のようなフレーズを記事の中に織り交ぜて発言します。すると、単なるトレーニング情報の情報提供者ではなく、「無理なく続けられるトレーニングを提案している方」という印象が残りますし、同じ考えをもったユーザーの場合、「Pさんの考え方に共感できる」と共感した上で、Pさんの存在が記憶に残りやすくなります。
これらの工夫を取り入れることで、「情報だけ取られる」状態から、「あなた自身のファンになってもらえる」状態をつくっていくことができます。
継続的な価値提供がファンを生む
話を最初に戻すと、理想とするお客様を絞り込んだ上で継続的に価値ある情報を届け続けることで、少しずつ「その情報に対するファン」が増えていきます。それがひいては、あなた自身のファンに変わっていきます。
そうすると、将来的に有料コンテンツや商品・サービスを提供する際に、より受け入れられやすくなるんですよね。むしろ、「この方から買いたい」と思われるようになるというか。
Pさんの場合、最初は自分のトレーニング日記や思いをSNSで多く発信していましたが、戦略を転換して「女性のための自宅でできる簡単エクササイズ」「忙しい女性でも続けられる食事管理法」など、女性の不調や体調管理を軸に、具体的で役立つ情報を中心に発信するようにしました。
発信を続けるなかで反応がよかったのは、絞り込んだお客様に向けたトレーニングプログラムでした。
- 産後ダイエット
「骨盤ケアと同時に行う産後6週間回復プログラム」 - デスクワーク女性のための姿勢改善エクササイズ
「長時間座りっぱなしによる肩こり・腰痛解消プログラム」 - 50代からの筋力維持プログラム
「女性ホルモンの変化に対応した筋トレ&食事法」 - 女性特有の体調サイクルに合わせたトレーニングカレンダー
「月経周期と連動させる28日間プログラム」
するとどうでしょう。
少しずつフォロワーが増え、「Pさんの投稿を待ってました」というコメントも増えていきました。これらのプログラムは、一般向けの「フィットネス情報」よりも、具体的な悩みや状況に寄り添ったものだったため、「まさに私のための、不調を改善するトレーニング情報」と感じていただける方が多かったのです。

日記のような日常発信があってもいいのですが、それはユーザーとの信頼関係ができた後にでも遅くありません。最初のステップは、あくまでも「理想のお客様が求める情報」を中心に据えることが、長期的な関係構築への近道になります。

絞り込みは制限ではなく、可能性を広げる選択である
専門性を活かした情報発信において、お客様の絞り込みは、一見すると機会を狭めるように感じるかもしれません。けれど実際には、より深く、より価値ある情報を届けるための戦略的な選択になります。
自分の強みが最も活きる理想のお客様層を見極め、そこに集中することで、検索からの流入を増やし、ユーザーとの強い信頼関係を構築することができます。
くわえて、軸を定めた発信を続けると、そこから情報の幅を徐々に広げていけますし、無理のない情報発信を続けやすいです。テーマが絞られているので、そのテーマを網羅するように記事を書く形になるためです。それはSEO的にもすばらしい選択になります(笑)。
繰り返しになりますが、インターネット上の情報発信では「すべての人に届けようとすると、誰にも届かない」という逆説があります。自分の専門性を本当に活かしたいときは、勇気を持って絞り込むことから始めてみてください。その第一歩が、あなた独自のファンづくりと、ファンの方々との深い関係性をつくる道をつくります。
それと、文中の例として挙げたPさんは、架空の人物です。業種を変えて書いています。