「案件サイト」で仕事を探した話
新しい仕事の獲得方法を探し始めたとき、専門性を活かせる仕事との出会いを期待してフリーランス向けの案件サイト5つに登録しました。募集案件に自分から応募もしましたし、プロフィールを出しておくことで、いわゆる「スカウト」を受けることもありました。
新しい働き方への期待と現実
案件サイトには、私の専門分野であるデジタルマーケティングの仕事も多く掲載されていますし、自分のスキルや経験を活かせそうな案件がたくさんあります。しかし、実際に応募してみると、想像以上に厳しかったです。
まず驚いたのは、単価の低さです。東京都の最低賃金(2024年10月時点で時給1,163円)以下の仕事が、当たり前のように掲載されています。経験やスキルが評価されることはほとんどなく、とにかく「安く」「すぐに」「大量に」という案件が大半です。
また、専門性を活かしたプロフィールや紹介文を作成しても、ほとんど読まれている様子はありません。「マーケティング戦略・上流設計」がメインと書いていても、「とりあえずSNSの投稿を手伝ってほしい」という作業依頼が来る具合でした。
話が違いすぎて草
さらに困ったのは、募集要項と実際の条件が異なるケースが多かったことです。採用が決まった後で「実はこの作業も追加でお願いしたい」「予算の都合で単価を下げてもらえないか」「週2在宅ワーク可と書いているけど、週3で出社してほしい」と、条件変更を求められることもありました。
「Web制作をどう頼んでいいかわからないので相談したい」というクライアントと面談したときは、要件定義自体がわからなかったようなので、依頼前の要件固めをMTGで数回にやりました。公開希望時期と予算を伺い、要件定義の事前情報をまとめて。ですが、まとまった時点で音信不通です。
SEOライティングの仕事をお受けしたときは、こんなことを言われました。
「このマニュアルを渡すので、このとおりにやってほしい。勘違いされないよう先にお伝えしますが、あなたは記事を書くけど、制作本数を増やしたいので、あなたの人脈でさらに外注で制作に出してください。
その人たちを管理して、請求書の回収までやってください。その外注先の原稿が上がってこなかったら、それはあなたの責任になります。あなたが全部書いて、その分の外注費用がかかったら、それも負担してもらいます。他の方はみなさん納得してやっています。3か月は試用期間で、その間は試用期間のギャラになります(つまり安い)」
ちょっと言ってることの意味がわからなかったので、お断りしました。
続・話が違いすぎて草
面談すると、「うちの会社の規模を知っていますか?」「僕らの会社の仕事ができるなんて、あなたは幸せです」と話す経営者もいて、何が言いたいのかよくわかりません。ほかにも、受託が決まっていないのに試験を受けさせられたり、「採用はしますが試用期間があります。その間の業務単価は、日給1円です」と言われたり。
は?
理由をお伺いし、意図を確認すると、担当者が激高。深夜に長文が送られてきました。しかも数回。
「いったい私は何をしているんだろう」と思いました。仕事はもちろんお断りしました。
案件サイトの構造的な課題
案件サイトならではの構造的な課題もありました。
サイト内での「ランキング」や「口コミ」による評価制度は、実績のある方がより有利になる仕組みになっています。新規参入者は、利益の出にくい案件でも受けざるを得ない状況になっているのです。
案件サイトの外でつくった過去の実績は、単なる「足切りの基準」としてしか扱われず、募集案件に対して応募数が多い場合、個々の専門性や経験の質は重視されないようでした。スカウトの際は、「ランキングや口コミの高い順、サイト内の実績がある順に依頼先を探している」と、何人かのクライアントがおっしゃっていました。
実際に案件サイトの使用をひとつに絞って、クライアントとのやりとりや実績をつくると、スカウトの依頼が増えました。
案件サイトで人気を集める条件
年齢による見えない壁もあったのかもしれません。案件サイトで人気のある方々の多くは、20代や30代。私が40代というのも、妙な案件に当たる理由だったのかもしれません。
人気のある方のプロフィールを分析したところ、こんな傾向がありました。
- とにかく単価が安い
- Webの代理店・制作会社にお勤め
- 副業として請け負っている
- 対応が早い
- 土日祝も稼働
- プロフィールが個人バレギリギリの写真
つまり、案件サイトで求められているのは、しっかり向き合って質の高い仕事をすることではなく、「とにかく早く」「安く」仕上げることだったのです。また、依頼後の対応工数が短い仕事も多いです。会社にお勤めの方が腕の研鑽のために副業でやるなら、単価が安くてもいいのは容易に想像がつきます。だとしたら、闘う余地がありません。
また、SNS関連やライティング、Web制作は、「経験がないけど在宅ワークをしたい方」がWebスクール等で勉強したのち、経験作りの仕事先として案件サイトを使うケースも多いようです。質より量を重視する仕事の募集も多かったので、そういう方向けに低単価で設定されているのかもしれません(知らんけど)。
見えてきた本質的な課題
案件サイトには案件サイトなりの「暗黙のルール」があると、わかりました。要は、やりよう次第です。案件サイトの攻略法があるというか。ですが、私にはそのルールに合わせて仕事をする気がないと、はっきりわかりました。
この経験は、大切な気づきになりました。私に必要なのは、自分軸を定め、営業して仕事を獲得する流れをつくることです。わざわざ言葉にするべくもない当たり前のことですが、そこになかなか行き着きませんでした。
※補足
案件サイトで募集内容と実際の業務が違う場合は、事務局に相談する等いろいろ手立てはあります。募集を出している多くはベンチャー企業で、成長と生き残りを目指して中の人がブラック状態で働いていていました。それを外の人にも同じ感覚でライトに依頼しているところが多かったです。条件確認をして、逆に詰められたこともあります。
中の人の「成長のためにできることは全部やる」という気持ちもわかりますし、生きる目的が違うので、わざわざ通報する気にはなりませんでした。靴屋で働く職人に、「八百屋はこうだよ」と言っても意味がないので。
新しい可能性との出会い
案件サイトにプロフィールを掲載したことで、いいこともありました。
自社サイトやSNSのリンクを掲載しているので、そちらをご覧いただいて、直接お問い合わせをいただくこともあるのです。その際は、サイトやブログにも目を通していただくことが多く、価値観の合う方からご依頼を受けることもできています。
案件サイトでの経験は、手痛い仕打ちを受けたものの、むだではありませんでした。むしろ、この経験があったからこそ自分の専門性を改めて認識し、明確に打ち出し、価値観が近いクライアントと出会うための戦略や営業を考えるきっかけになりました。
そもそも私はデジタルマーケティングの専門家なのに、デジタルマーケティングを使って自分を売り出す考えをもっていなかったんですよね。恥ずかしいし。ですが、その考えは改めなければいけないと痛感した出来事でした。決意して行動に出るまでは、その後かなり時間がかかっていますが。