「自分らしさ」を活かしたビジネスの作りかた
「自分らしさ」を言語化したら、次はそれをどうやってビジネスに活かしていくか、です。
前回までの記事で、4つのワークを通じて「らしさ」を見つける方法をまとめました。時系列での振り返り、言葉を集める、価値観の棚卸し、対話による深掘り。これらを通じて「自分らしさ」が言語化できます。
ここからが本当の意味でのスタートになります。「自分らしさ」は価値として使ってこそ意味があるからです。
「自分らしさ」をビジネスに活かすことが重要な理由
私が最初にWeb制作を営業したときの話です。
私のいた会社は出版社でしたので、会社でも部署でもWeb制作の受注は業務として行っていませんでした。ですが、会社自体はコンテンツ制作をやっていて、雑誌・書籍をつくる専門集団ですし、私もコンテンツマーケティングを自社サイトに施し、必要な成果を上げていました。
ですから、Web制作案件を仕事としてやってみよう。そう決めたとき、Web制作会社でもない私たちがビジネスとして成り立たせるために考えたのは、まさに「自社らしさ」でした。
私たちは「丁寧なヒアリング」と「その企業らしい提案をすること」を大切にしていました。でもWeb業界の仕事のやり方に比べると、出版社がやるWeb制作の仕事自体は、「相手の話を聞く時間を割きすぎ」「専門業者に比べると時間がかかりすぎる」「もっと効率的にすべき」と、その特徴を課題だと考えていました。
しかし、実はその「丁寧さ」こそが、私たちの会社がお客様から支持される理由でもあったと後からわかりました。「ほかの会社では聞いてもらえなかった悩みを、御社には理解してもらえた」「じっくり考える時間があってよかった」という声が、寄せられたのです。
ですから、当時の私たちにとって「自分らしさ」は、専門業者ではない弱みはありましたが、
- 出版社だからできる丁寧なヒアリングは明確な差別化要因になる
- コンテンツを生み出す力や編集力をWebマーケティングに応用できる
- 出版社だからこそできる持続可能な強みとなる
と、私たちの強みを自社の価値として、サービスに活かすことにしました。
「自分らしさ」を活かす2つのステップ
ステップ1:具体的な言葉にする
まず大切なのは、見つけた「らしさ」を具体的な言葉に置き換えることです。私たちの特徴は「丁寧さ」と「コンテンツの深掘り力」にあります。これを具体的な価値として言語化すると、下記になります。
- 「お客様の状況を深く理解するための丁寧なヒアリング」
- 「無理のないペースでの段階的な提案」
- 「クライアントのよさと深みを引き出す出版社ならではの編集力」
ここで重要なのは、
- 抽象的な表現を避ける
- 具体的な行動や方法として示す
- お客様のメリットがわかる表現にする
これなら「自分らしさ」が具体的な価値として伝わりやすくなります。
ステップ2:「自分らしさ」を見える形にする
次に「自分らしさ」を具体的なサービス化しました。丁寧に話を聞いた結果、何に反映されるかをわかりやすくしたのです。
■サービス設計の見直し
【Before】
・標準的な提案プラン
・一般的な料金体系
・通常の納期設定
【After】
- ヒアリングプロセスを可視化
・ご契約前の無料相談
・出版社ならではの編集方法を資料化し、提案に盛り込む
・お客様の状況シートを作成し、共有 - お客様のスケジュールや予算に合わせた段階的な提案設計
・3か月の短期プラン
・6か月の基本プラン
・1年の継続サポートプラン - フォロー体制
・月1回の進捗確認ミーティング
・メールによるQ&Aサポート
こうして書いてみると極めて普通のことですが(笑)、Web制作業務の受託に乗り出した私たちにとっては、大きな進歩でした。
この取り組みがもたらした変化
「自分らしさ」を具体的なサービス内容として設計したことで、私たちにできる提供価値がよりはっきりしました。それによって、話をしっかり聞いて欲しい企業からお声がかかることが増えました。
案件の質の変化
以前は「専門業者のほうが安いのに、なぜ御社は高いのか」とお叱りの声もいただきましたが、提供価値を言語化してからは減りました。その代わり、
・「私たちの話をじっくり聞いて提案してほしい」
・「サービスの本質を知ってもらうサイトづくりに手を貸してほしい」
・「運用も見据えた提案をしてほしい」
・「サイトを公開した後も関わってほしい」
というご相談が増えました。
社内の変化
「初回相談から契約まで時間がかかりすぎる」と感じていたメンバーたちも、
・「お客様の本質的な課題が見えるようになった」
・「提案に手応えを感じられる」
・「ヒアリングが長引くと損という考えが浮かばなくなった」
と、その価値を実感するようになっていきました。
実際、問い合わせには丁寧にお答えし、提案資料のわかりやすさにもこだわりました。定期的な状況報告と改善提案を行うことで、あらゆる接点で「丁寧さ」という価値を一貫していました。結果、私たちの「自分らしさ」は、少し時間はかかりましたが、社内にも社外にも伝わりやすい価値になりました。
とはいえ、素人から始めた私たち(というか私)は、Web制作の厳しさを幾度も経験し、痛手も多数負いましたが……(汗)。
「自分らしさ」を価値ある強みにする
自分らしさを価値にするためには、何をすればいいか。長所は短所の裏返しとも言います。いくつかのマイナスとも取れる特徴を、価値に言い換えるところから始めることをおすすめします。
たとえば、私たちの欠点であった「相手の話を聞く時間を割きすぎる」ことを「丁寧なヒアリングが特徴」と一転させたら強みになったように、です。
・「質問が多い」性質
→相手の本質的な課題を理解しようとする探究心や誠実さがある
・「確認を何度もしてしまう」習慣
→間違いを防ぎ、期待に応えようとする姿勢がある
・「説明が細かくなってしまう」傾向
→相手の理解を深めようという心遣いがある
これらは一見「直したい欠点」に見えますが、見方によっては、価値を生む源になります。言い換えるポイントは、次の3つです。
- 行動の結果に焦点を当てる
⇒その特徴によって、どのような成果や変化をもたらすのかを具体的に示します - 相手の視点を取り入れる
⇒相手にどのような価値を提供できるのかを明確にします - 差別化を図る
⇒他の方との違い、自分ならではの違いを「強み」に言い換えます
短所は長所になり、価値にもなる
「自分らしさ」とは、自分自身が自然に提供できる強みであり、価値です。だからこそ、無理なく続けられますし、信頼を得られます。加えて、続けることが値打ちを上げることにもなります。
短所はよく見ると長所にもなります。ですが、いいことも悪いことも含めて価値として言語化し、よい点は特徴として仕事に取り入れると、それが「価値を活かした自分の仕事」となるのです。
このときの経験は手痛い失敗も多数ありましたが、今の私を形作る大きな土台になっていますし、私自身がコンサルをする際の知見の源泉にもなっています。自分の価値を見定められず悩んでいる方には、ぜひやってみることをおすすめしたいです。
短所をリストアップして、長所に書き換えられるかどうかから始めてみてください。自分にも意外な価値がそこにあります。